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東京高等裁判所 昭和45年(ラ)861号 決定

抗告人 森孝吉

主文

原決定を取り消す。

抗告人から国に対する東京地方裁判所昭和四五年(ワ)第八三五二号損害賠償請求事件について、抗告人に訴訟上の救助を付与する。

理由

本件抗告理由の要旨は、抗告人の訴訟救助の申立を却下した原決定は貧困者の裁判を受ける権利を奪う違法のものである、というにある。

記録によると、抗告人は国を相手に昭和四五年八月一七日原裁判所に対し、およそ次のような事実を請求原因として、総額金一〇〇〇万円の損害賠償請求訴訟を提起し、同時に訴訟上の救助の申立をしたことが認められる。

(一)  抗告人は昭和四五年五月一六日警視総監に宛て告訴・告発状を提出したところ、内容不明確で受理できないとして返戻された。さらに同年六月四日大井哲および府中刑務所長を職権濫用で告訴・告発したところ、これも同様内容不明確で受理できないとして返戻された。そこで抗告人は同年七月一三日府中警察署長に宛て告訴・告発状を提出したところ、ここでも内容不明確で受理できないとされ同月二二日差し戻された。しかしながら、告訴・告発は刑事訴訟法第二四一条により口頭受理も可能であるから内容不明確の場合には告訴・告発人から不明確な点を聴取して受理すべきであるのに、これをしなかった警視庁・府中警察署の行為は違法である。よって、抗告人は国に対し慰藉料として金二〇〇万円の支払を求める。

(二)  抗告人は鳥取地方裁判所に対し行政訴訟を提起しているものであるが、同裁判所から昭和四五年七月八日付で同月一七日午後一時一五分の期日の呼出があった。しかるに、府中刑務所長は(イ)代理人をたのめ、(ロ)弁護士会にたのめ、(ハ)移送の費用がない等の理由を示し、抗告人を同裁判所に出頭させず、抗告人の裁判を受ける権利を妨げた。そこで、抗告人は国民救援会と鳥取生活と健康を守る会に保護を求めるため発信しようとしたところ、同所長は抗告人の自由を制圧して発信させなかった。そのため右訴訟は遂に休止の止むなきに至った。よって、抗告人は同所長の違法な行為に基づく慰藉料として国に対し金二〇〇万円の支払を求める。

(三)  抗告人は東京地方裁判所に訴を提起し、民事第三部に昭和四五年(行ウ)第六四号行刑処遇是正改善請求事件として係属中であるが、印紙の貼用をしなかったため五〇〇円の印紙の貼用命令を受けた。そこで、抗告人は府中刑務所長に対し抗告人の作業賞与金のうちから金五〇〇円の印紙購入の申出をしたところ、同所長は監獄法上認められないとしてこれを拒否し、抗告人の訴訟救助の申立の一部が却下になっていることを知りながら、訴訟上の救助の申立をせよと申し向けた。抗告人は右のような同所長の違法な行為によって裁判を受ける権利を妨害され、抗告人の訴状は宙に浮いている。よって、同刑務所長の不法行為に基づき国に対し金五〇〇万円の慰藉料の支払を求める。

(四)  抗告人は東京地裁において訴訟救助の申立の一部を却下されたので、昭和四五年七月二〇日府中刑務所長に対し、即時抗告をするための認書許可を求める必要から、願箋一枚の交付を願い出たところ、副看守長川杉某によって必要ないとして交付を拒否された。そこで担当看守に再度要請してようやく交付を受けた。しかし、一時であっても右のように抗告人に対する制圧・妨害は違法であるから、これに基づき国に対し金三〇万円の慰藉料の支払を求める。

(五)  抗告人は小菅刑務所の看守を職権濫用罪で長野地方裁判所に対し、準起訴手続の請求をしたところ、却下され最高裁判所において却下の裁判が確定した。そこで右請求の際提出してあった証拠品の還付請求をしておいたところ、昭和四五年三月二四日付で同裁判所から府中刑務所長宛還付があった。ところが、府中刑務所の看守は右の還付のあったことを秘匿し、同裁判所から受領証の要求を受けてはじめて同年八月一一日抗告人に右還付のあったことを知らせ、かつ、現実に証拠品の交付を受けた日でない、前記刑務所長の受領した日付で受領の署名捺印を要求した。このような看守の証拠品隠匿行為は違法であるから、国に対し慰藉料金七〇万円の支払を求める。

以上のとおりであるが、記録上抗告人が訴訟費用を支払う資力のない者であることは疏明されるところ、右請求原因事実によると抗告人が勝訴の見込のないものであると速断することはできないから、民事訴訟法第一一八条による訴訟救助の要件を充足するに欠けるところはない。よって、これと異なる原決定は不当であるから取り消すこととし、抗告人に対し訴訟上の救助を付与し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 桑原正憲 裁判官 寺田治郎 浜秀和)

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